FACTORY
作業場風景ミウラート・ヴィレッジでは前回2007年に「変貌の軌跡」と題して、私のそれまでの約40年にわたる作品の軌跡を展示させていただきました。
今回は近年に制作した作品のみの近作展です。
しかしわずか3年間の仕事であるにもかかわらず、めまぐるしいほど作風が変転しています。そうしてこのように一堂に並べてみますと、作者の興味の変遷や、その制作の飛躍が俯瞰できて面白いのではないかと思いますがいかがでしょう。
ここでいきなり結論を書いてしまいますが、実は制作とは<納得できるいい作品を作ること>ではなく、<自分にも理由が分からないがなぜか面白いものを見つけ出して発酵させてゆく>ことなのです。それから、今回展示してある制作ノートの中にも「毀すことを懼れるな」「新しいものは毀すことから生まれる」などと繰り返し書いてあるように、いかに苦労の末に作り上げ、ようやく仕上がったものであろうとも、いささかの躊躇いも無く毅然と毀していかなければ、そこから新しいものは生まれてこないということなのです。しかし何十年と制作をし続けてきても、出来上がった作品を毀すのは本当に辛くて怖いことなので、いつもこうやって自らを叱咤鼓舞していなければなりません。
つまり制作とは、<自分にも理解できないが面白いもの>を飛躍発展させ作り上げ、それを次々に<惜しみなく毀してゆく>ことなのです。
これらの展示作品の殆ど全ては未発表で、直接フランスのアトリエからミウラート・ヴィレッジに運んできたばかりのものです。
会場は、絵と絵が激しくぶつかり合って、高い音をたてて響きあうように、少々ドラマティックに並べてありますが、実際アトリエで描いているときにもこんな風に作品を並べて、見比べながら制作をしているのです。
第三室は、アトリエを設えて公開制作をします。毎日制作をしますのでご興味のある方は是非ご来駕ください。ひとつの作品が出来上がるまでにどのような過程を経て、どのように生成してゆくかを逐一ご覧になっていただけると思います。
大型彫刻は我が家のアトリエを再現するように、庭にまとめて展示をしました。
私は松山の高校を出て上京し、その一年後に渡仏をしました。
フランスやイタリアに行ってからも、美術学校にも通わず、誰に師事もせず、どんな美術運動にも合流せず、ただただ自分の描きたいもの彫りたいものだけをひとりでひたすら四十数年間作り続けてきました。それは自分の作りたいものが自分だけの美の法則に則っていたからで、私は今でもそれを善しとしています。
流行に棹差さず、大勢に媚びず、美術界の傾向に靡かず、いやそれどころか敢えて時代に逆らうように、頑なに自分の信じるものだけを造ってきました。
自分の一生を賭けて作る作品ならばこそ、純粋に無垢な創造の歓びでなされなければならないと思うのです。人のこころを打つ作品は、まず自分のこころを揺さぶるものであるべきなのです。そのためには制作に於いて「戦略」や「妥協」「打算」があってはならないのです。
もし私の作品が少しでも皆さんの胸を打つとしたら、それはこれらが私の内に居る幼子のこころによって奏でられたからで、それがあなたの中にある柔軟な子供の部分に直截に訴えたからでしょう。そういう方にひとりでも巡り会えれば作家の幸せこれに勝るものはありません。こんな展覧会を企画してくださった当館にあらためて御礼申し上げます。
末尾になりましたが、大型彫刻の設置をしてくださった石材振興会の職人さんたち、第三室のアトリエを造ってくださったワイウッド・クラフトの皆さんにこころからお礼を申し上げます。
濱田亨